大阪地方裁判所 平成9年(ワ)3426号 判決 1997年12月18日
原告
八汐利彦
被告
法元正光
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、五一五万円及びこれに対する平成六年四月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、久豊晃司(以下「久豊」という。)の運転する自動二輪車の後部に同乗中、久豊が運転を誤り被告が路上に駐車させていた自動車に衝突したため、原告が道路上に叩き付けられ負傷したとして、被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
以下のうち、1、3は当事者間に争いがなく、2は甲第一号証、第七号証及び原告本人尋問の結果により認めることができる。
1 久豊は、平成六年四月九日午前一時〇五分ころ、自動二輪車(一神戸ほ三八八三、以下「久豊車両」という。)を運転して、兵庫県尼崎市武庫之荘七丁目二九番一六号先道路を進行中、同所付近の交差点(以下「本件交差点」という。)を北東から南へ左折進行した際、同所に被告が駐車させていた普通乗用自動車(和泉五二ほ三九四三、以下「被告車両」という。)の前部に久豊車両を衝突転倒させた(以下「本件事故」という。)。
2 原告は、本件事故当時、久豊車両の後部座席にヘルメットを装着せずに同乗しており、本件事故により路上に叩き付けられて負傷した。
3 被告は、本件事故当時、被告車両を所有して自己のために運行の用に供していた。
二 争点
1 被告の責任
(原告の主張)
本件事故は、被告が本件事故現場に被告車両を違法駐車させていたため、久豊が被告車両を避けきれずに発生したものであるから、被告は、本件事故によって原告が受けた損害について、自賠法三条に基づく責任を負う。
(被告の主張)
本件事故は、久豊の左折時の未熟なハンドル操作等の過失によって久豊車両が転倒滑走し、たまたま駐車していた被告車両に接触したものである。本件事故現場は、被告車両が駐車していたとしても三メートル以上の余地があり、交差点進入時に徐行ないし減速していれば少々ハンドル操作が拙くとも転倒を免れたはずであり、久豊が制限速度を超える速度のまま左折したことにそもそも無理があり、本件事故の発生原因は専ら久豊の側にある。
2 原告の損害
(原告の主張)
(一) 治療費 一五万四二七〇円
原告は、本件事故により、頭部外傷(Ⅱ型)、頭部打撲挫創、右手掌部手背部挫創、左手掌部手背部挫創、両膝打撲挫創、左鎖骨骨折、左前腕部挫創、頸部捻挫の傷害を負い、東青木診療所において平成六年四月九日から同年八月二七日まで入院、同月二八日から平成七年一月一一日まで通院治療を受け、右治療費として一五万四二七〇円を負担した。
(二) 入院雑費 一八万三三〇〇円
原告は、前記入院に際し、一日一三〇〇円の一四一日分の雑費を支出した。
(三) 休業損害 二三五万一八〇〇円
原告は、本件事故当時、調理師として中央食品株式会社に勤務しており、一か月当たり二一万八一〇〇円を得ていたが、本件事故により平成六年四月九日から平成七年一月一一日まで九か月休業し、右期間の給与及び賞与減額分三八万八九〇〇円の合計二三五万一八〇〇円の休業損害を受けた。
(四) 逸失利益 一五九万九〇〇四円
原告は、平成七年一月一一日、左肩関節の運動機能障害の後遺障害を残して症状が固定し、右は自動車保険料率算定会調査事務所により自賠法施行令二条別表一二級に該当するとの認定を受けたところ、右後遺障害により五年間労働能力の一四パーセントを喪失したから、前記収入を基礎とすると、原告の逸失利益は一五九万九〇〇四円となる。
(五) 入通院慰藉料 二二五万円
(六) 後遺障害慰藉料 二三〇万円
(七) 弁護士費用 三四万円
第三当裁判所の判断
一 争点1(被告の責任)について
1 甲第一号証、第七号証、乙第一号証、第三、第四号証、検乙第一ないし第一四号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 本件交差点は、東北から南西に至る道路(以下「本件道路」という。)とこれに南側から突き当たる道路(以下「交差道路」という。)の交差する信号機により交通整理の行われていないT字型の交差点である。本件道路は普通乗用自動車どうしの離合も困難なほどの狭路であるが、交差道路は白線による歩車道の区別があり車道は四メートル程度、歩道は一メートル弱の幅がある。本件道路は本件交差点で若干屈曲しており、北東側から見た場合、本件交差点から先はやや右側に曲がっており、正面には本件交差点の南西角にある「友行ハウス」が見える状況となっている。
(二) 本件事故当時、被告は、本件交差点から南へ五メートル以上離れた地点の前記友行ハウス前に前部を北側に向けて被告車両を駐車させていた。その際、被告車両は交差道路の南側で白線を跨いで三分の二程度は歩道側にはみ出した状態となっており、交差道路には三・三メートルを下回らない走行可能道路幅が確保されていた。
(三) 久豊は、本件事故当日の平成六年四月九日後部座席に原告を同乗させて久豊車両を運転しており、同日午前〇時五六分ころ、兵庫県尼崎市上ノ島町一丁目一五番二二号先交差点で信号待ちのため停止していたが、原告に警察の警ら用車両(パトカー)が接近してきた旨告げられ、原告の声で振り返りパトカーを確認すると、免許停止中であるのが発覚するのを恐れて信号無視をして走行を開始し、パトカーが赤色灯を点灯しサイレンを吹鳴して車載のスピーカーで停止を求めながら追跡してくるにもかかわらず、更に三回の信号無視を重ねながら制限速度をはるかに超える猛スピードで逃走し続けた。この間、原告は恐怖を感じ、久豊に対し停止するよう何度も求めたが、久豊はそのまま走行し続けたため、原告は、左手を久豊の腰に回し右手で久豊車両の後部荷台を掴んで、しがみついているのがやっとの状態だった。
(四) 久豊は逃走を続けた後いったんパトカーの追尾を免れ、本件道路に進入して本件道路を北東から南西へ向けて進行していたが、更に道なりに進行しようとしたところ、本件交差点に至って本件道路がやや右側へ曲がっているのに気付かず、反対に、左側に交差道路が続いているのを発見し、本件交差点を南へ左折したところ、本件事故が発生した。
(五) 本件事故によって被告車両が受けた損傷は、フロントバンパー下部の左角付近に軽微な凹損及び擦過損が生じた程度にとどまった。
2 右によると、本件事故は、久豊が免許停止中であるにもかかわらず久豊車両を運転していたことから、警察官に右の事実が発覚することを恐れて、パトカーの追跡を免れようとして信号無視を重ねたうえ制限速度を超過する高速度で進行し、その結果、幅員の狭い本件道路から交差道路へ左折進入する際左カーブを曲がり切れず、久豊車両を交差道路の中央部分を越えて転倒滑走させ、交差道路の向かって右側に駐車中の被告車両のフロントバンパー下部に接触させたというものであると認められる。そして、交差道路には左折後の久豊車両からみて三・三メートルを下らない走行可能道路幅が確保されていたこと、また、被告車両が本件交差点から五メートル以上離れた位置に駐車していたことに照らせば、久豊は、本件交差点を左折するにあたり減速または徐行したうえ、交差道路進入後は左側通行の原則に従って走行していれば、被告車両と衝突することなく本件事故現場を通行することが可能であり、十分に事故回避措置を取り得たものと認められる。
そうすると、本件事故は久豊の一方的な過失によって発生したものというべきであり、被告車両の駐車と本件事故の発生との間には相当因果関係を認めることはできないから、本件事故は被告車両の「運行によって」生じたものではないと認めるのが相当である。
二 結論
以上によれば、被告は、本件事故の発生について自賠法三条の責任を負うものではないと認められるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 濱口浩)